しばらくすると、「ちゅ、ちゅ……」という、リップ音が微かに聞こえ始めた。そして、次第にそれは熱を帯びていき、「ん、んんっ……。 や、やぁ……。 はぁ、はぁ……。 んっ、ダメ……やっ……。 あ、あっ……」という、拒否しつつも甘く蕩けるような吐息が漏れ聞こえてくる。心臓がドキドキと早鐘のように打ち始めた。まさかこんな場所で……と、こっちまで妙に興奮してくるじゃないかよ。
俺は、そんな気分じゃ全然ねーのに……。自嘲気味にそう思い、また一つ、深く溜息をついた。
俺ことユウマは、壁に寄りかかったまま、視線を足元に落としていた。聞きたくない。見たくもない。そう心の中で繰り返すのに、耳は嫌でも二人の吐息や、甘く交わされる言葉を拾ってしまう。
「んっ……。 や、だめ、見つかっちゃう……。ここ、学校……だよ……んっ……」
女の人の、か細く震えた声が聞こえる。男の声は聞こえない。だが、女の人が小さく息を飲んだ後、控えめなリップ音が聞こえ始めた。ちゅ、ちゅ、と、まるで小さな魚が水面を啄むような、柔らかな音だ。そして、それが次第に粘つきを帯びて、じゅ、じゅ、と水音が響くようになる。それは、ただのキスではない。舌を絡め、お互いを求め合うような、湿った音だ。
やがて、キスをする音に混じって、愛撫が始まったのだろう、女の人の喘ぎ声が聞こえてきた。はぁ、はぁ、と熱のこもった甘い吐息が、風に乗って俺の元へと運ばれてくる。
「んんっ、あ……やだぁ、そこ……だめ……あぁ……」
喘ぎ声は、途切れ途切れで、甘く、そしてどこか切実さを帯びている。スカートの中に手が入れられたのか、生地が擦れるガサガサという音が微かに響く。
そして、とくん、とくん、と、心臓が跳ねるような音が聞こえてきた。それは、俺の心臓の音か? いや、違う。それは、水が滴るような、ねちり、ねちり、という湿った音だった。まるで、指先が粘り気のあるものに絡めとられているような、生々しい感触を想像させる音。
「んんっ……あ、あぅ……や、やぁ……っ、あっ、そんなに……っ」
女の人の声が、さらに甘く、蕩けるように潤んでいく。愛撫のペースが上がったのだろうか。ねち、ねち、と湿った音が、まるで水時計のように規則正しく響き、それに合わせて女の人の喘ぎ声も、あぁ、あぁ、と、だらしなく蕩けていく。
「ひっ、あぅ、んん、ああぁっ……」
もう、俺は壁にもたれることすらできなくなっていた。ただ耳を塞ぎたくてたまらない。こんな音を聞かされて、どうして平常心でいられるだろうか。自分でも気づかないうちに、拳を強く握りしめていた。
やがて、女の人の喘ぎ声が途切れ、ごそごそと、何かが擦れる音が聞こえてきた。どうやら、立ち上がったらしい。壁に手をついたのだろうか、微かにコンクリートの冷たい感触が伝わってくるような気がした。
「んっ……やぁ、もう……」
そう掠れた声で弱々しく抵抗する声が聞こえたかと思えば、スカートの生地が捲り上げられる、ささやかな音が響く。その後の静寂が、俺の想像力を掻き立て、心臓をさらに速く打たせた。
「っんんっ……あぁ、そこは……ひゃぁ、んんっぁあぁっ!」
甘い悲鳴のような喘ぎ声が聞こえる。そして、ぬちゅ……と、粘り気のある、湿った水音が響いた。何かが密着し、ゆっくりと、しかし確実に押し入っていくような、生々しい音。それが、次第に、ぱんっ、ぱちゅん! と肌と肌が当たるような官能的というか刺激的な音に変わっていく。
「んぅ、ぅん……あぁ、ああぁっ……あぁんっ! んんぅ……はぁ、はぁぁ……」
挿入されたのだろう。女の人の声が、一際高く、そして切なさを帯びた甘い喘ぎへと変わる。そして、ぬぷ、ぬぷ、と、肉が擦れ合うような湿った音が、静かな校舎裏に響き渡る。
次第にその音は、ぺちゅ、ぺちゅ、と、肉と肉がぶつかり合う音へと変化していった。その度に、女の人の吐息が、はぁ、はぁ、と熱を帯びて乱れていく。
「んぅっ……あ、あ、ああぁっ……」
身体を打ち付ける音が激しさを増すにつれ、女の人の喘ぎ声も、あぁ、あぁ、と途切れがちに、だが確かに、快楽に蕩けていく。時折、ねっとりと粘つくような水音が混じり、二人の熱がどれほど高まっているかを物語っていた。俺はもう、何も考えられなくなっていた。ただ、その生々しい音を、聞きたくないのに、耳が塞げずに聞いていることしかできなかった。
その声の感じは、間違いようがなかった。長年、俺の隣にいた女の子の声だ。なぜだろう、一縷の望みにかけて、見たくもないのに、どうしても確認せずにはいられなかった。息を殺し、茂みの隙間から目を凝らす。
そこに映し出された光景は、俺の胸に突き刺さり、砕け散る。
それは——カオルだった。
絶望と、言いようのない感情が胸の奥からこみ上げてくる。俺のよく知る、あの可愛らしい笑顔を浮かべるカオルではなく、快楽に顔を歪ませ、男に体を打ち付けられている彼女の姿。
「んんっ、は、やだぁっ……、あぅっ、んんっ……ダメえぇ……あぁぁっ……」
彼女のスカートは無残にも捲り上げられ、下着は太ももに食い込むように下げられている。いつもは制服に隠された、小ぶりで可愛らしい胸が、男の身体が打ち付けられるたびに、ぷるんと震える。その光景が、俺の心に深く刻み込まれていく。 ぺちゅ、ぺちゅ、と肉がぶつかり合う音が、俺の鼓膜を激しく叩く。カオルは、もう、ほとんど意識が飛んでしまっているかのようだ。頭を後ろに反らし、瞳を閉じて、快楽に身を任せている。 「ああぁっ、んんっ、んぅ……」 腰が何度も激しく突き上げられるたびに、彼女の白い太ももがぴくん、と跳ね、割れ目から男のものが抜けては、ねちゅ、ねちゅ、と湿った音を立てて再び挿入されていく。俺は、その光景から目が離せなかった。不快感と、どうしようもない興奮が、俺の体を支配していく。今まで見たことのない、淫らに開かれた彼女の姿に、俺の息子は熱を帯び、硬く膨張していった。 俺は、カオルが快感に喘ぐ姿を見ながら、自分の息子を握りしめ、ゆっくりと上下に動かし始めた。 ぺちゅ、ぺちゅ、と聞こえる音に合わせるように、自分の手も動かしていく。俺の好きな人が、他の男に抱かれている。その事実が、俺の理性を焼き尽くし、ただただ、本能的な快楽だけを求めていた。 俺の視線は、カオルと先輩の絡みつく身体から離れることができなかった。不快だったはずなのに、いつの間にかそんな感情は快感に塗りつぶされていた。カオルが快楽に喘ぎ、目を蕩けさせるたびに、俺の心臓は激しく高鳴る。 「んっ、あ……ぁあ、んん……」 か細く甘い喘ぎ声が聞こえるたびに、俺は自分の熱を持った息子を、無我夢中で扱いた。カオルの胸が揺れ、腰がぴくんと跳ねるたびに、俺の手つきはさらに激しくなる。 何度も、何度も、頭の中ではカオルが俺に抱かれている妄想が駆け巡っていた。先輩の代わりに、俺がカオルの身体を突き上げ、彼女の喘ぎ声を独り占めしている。そんな現実とは違う世界を思い描くことで、俺の興奮はさらに高まっていった。 そして、俺の理性はついに崩壊した。熱いものが込み上げ、視界が白く染まる。ドクドクと脈打
しばらくすると、「ちゅ、ちゅ……」という、リップ音が微かに聞こえ始めた。そして、次第にそれは熱を帯びていき、「ん、んんっ……。 や、やぁ……。 はぁ、はぁ……。 んっ、ダメ……やっ……。 あ、あっ……」という、拒否しつつも甘く蕩けるような吐息が漏れ聞こえてくる。心臓がドキドキと早鐘のように打ち始めた。まさかこんな場所で……と、こっちまで妙に興奮してくるじゃないかよ。 俺は、そんな気分じゃ全然ねーのに……。自嘲気味にそう思い、また一つ、深く溜息をついた。 俺ことユウマは、壁に寄りかかったまま、視線を足元に落としていた。聞きたくない。見たくもない。そう心の中で繰り返すのに、耳は嫌でも二人の吐息や、甘く交わされる言葉を拾ってしまう。 「んっ……。 や、だめ、見つかっちゃう……。ここ、学校……だよ……んっ……」 女の人の、か細く震えた声が聞こえる。男の声は聞こえない。だが、女の人が小さく息を飲んだ後、控えめなリップ音が聞こえ始めた。ちゅ、ちゅ、と、まるで小さな魚が水面を啄むような、柔らかな音だ。そして、それが次第に粘つきを帯びて、じゅ、じゅ、と水音が響くようになる。それは、ただのキスではない。舌を絡め、お互いを求め合うような、湿った音だ。 やがて、キスをする音に混じって、愛撫が始まったのだろう、女の人の喘ぎ声が聞こえてきた。はぁ、はぁ、と熱のこもった甘い吐息が、風に乗って俺の元へと運ばれてくる。 「んんっ、あ……やだぁ、そこ……だめ……あぁ……」 喘ぎ声は、途切れ途切れで、甘く、そしてどこか切実さを帯びている。スカートの中に手が入れられたのか、生地が擦れるガサガ
カオルは、ポニーテールの毛先を指でくるくるといじりながら、少しだけ冷ややかに笑った。その笑みは、ユウマに向けた優しさではなく、諦めに近いものだった。「まあ……あんたのこと、嫌いじゃないよ? 昔から一緒にいたし、一緒にいて気楽だし。でも、“恋愛対象”にはならないの。だって、私の理想ってもっと上だからさ。」 その言葉は、あまりにも決定的だった。それは、これまでユウマが抱き続けてきた、淡い“可能性”の全てに、冷たい蓋をするようだった。 カオルはユウマに背を向けて歩き出す。夕暮れの風に、制服のスカートがひらひらと揺れ、彼女の背中がどんどん遠ざかっていく。そして、ほんの少しだけ、肩越しに振り返った。「……いつまでも夢見てないで、現実見たら? あんたには、もっと似合う相手がいると思うよ。それは、私じゃないよ……」 その一言は、優しさのようでいて、ユウマの心に深く傷を残す、残酷なものだった。ユウマは、ただその場に立ち尽くし、彼女の小さな背中が校門へと消えていくのを、見送ることしかできなかった。 夕陽が、彼の影を長く長く引き伸ばしていた。まるで、決して届くことのない、二人の間の距離をなぞるように。 何となく察してはいた。急に素っ気なくなり、俺と距離を置き始めたカオルの様子に、胸の奥がきゅうと締め付けられるような予感が芽生えた。周りの女子たちのひそひそ話も、その予感を裏付けるように俺の耳に届く。 どうやら、相手はひとつ上の先輩らしい。カオルが以前、嬉しそうに話していた「美形でお金持ちの先輩」という噂の人物だ。そして、しばらくして女子の友達経由で、二人が付き合い始めたという決定的な情報が耳に入ってきた。 その噂を聞かずとも、浮かれて上機嫌なカオルを見れば、すべてを悟ることができた。彼女は、周りの女子の友達に、少し得意げに、そしてはにかむような笑顔で、新しい彼氏のことを話しているのが聞こえてくる。彼がどれだけお金持ちで優しいか、どこへ連れて行ってもらったか、どんなプレゼントをもらったか。その幸せそうな声が、俺の心に小さな棘を刺していくようだった。 俺は、最後の告白以来、カオルとは一度も話をしていない。顔を合わせることも避けていた。あの冷たい視線が忘れられなかった。はっきりと、「あんたとはレベルが違うの。顔も、雰囲気も、将来性も。全部、比べるまでもない」と、まるで俺
『告白の記録』 小学校高学年の春。校庭の桜が、風に吹かれてはらはらと舞っていた。薄紅色の花びらが、まるで雪のように二人の間を通り過ぎていく。 放課後、誰もいなくなった遊具の前で、ユウマはランドセルを背負ったまま、カオルの前に立っていた。カオルは、結び直したポニーテールのゴムを指先でいじりながら、少しだけ不思議そうな顔でユウマを見つめている。「……なに? 急に呼び出して。」 ユウマは、手のひらにじっとりとにじむ汗を、ズボンの裾でそっと拭いながら言葉を探していた。ふざけたり、馬鹿なことを言ったりするのは得意だ。だが、こんな風に真剣な感情を伝えるのは、生まれて初めての経験だった。「えっと……その……俺さ、カオルのこと、好きなんだ。」 カオルは、ユウマの言葉に目を見開いた。驚きと、ほんの少しの戸惑いがその瞳に浮かび、そしてすぐに、その視線を下へとそらす。「……そっか。ありがと。」 その言葉は、柔らかく優しい響きを持っていた。だが、ユウマにはどこか遠く、手が届かない場所にあるように感じられた。「でもね、ユウマ。私、もっと大人になってからじゃないと、そういうの考えられないかも。」 ユウマは、その言葉に、少しだけ自嘲気味に笑って「そっか」と短く答える。それが、ユウマにとっての初めての告白であり、初めての失恋だった。 中学に入ってからも、ユウマの気持ちは変わることがなかった。部活帰りの夕暮れ、蛍光灯の下でテスト勉強に励む合間、文化祭の準備で賑わう教室。ユウマは何度も、カオルに告白するタイミングを探し続けた。「カオル、俺さ、やっぱりお前のこと好きなんだよ。」「……また? ほんと、懲りないよね。」 カオルは、呆れたような表情を浮かべて、くすりと笑う。だが、その笑顔はどこか照れくさそうに、下を向いていた。「……ユウマのそういうところ、嫌いじゃないけど。……でも、私の理想って、もっと上なの。ごめんね。」 ユウマは、その度に「そっか」と笑いながら、その言葉を受け入れた。振られることには慣れていた。だが、カオルの言葉の端々に、決して冷たい拒絶ではない、ほんの少しの優しさが含まれていることも知っていた。 完全に拒絶されているわけじゃない。でも、一歩も前に進めない。届いているようで、届かない。それが、ユウマの中でずっと続いていた、もどかしい感情だった。(……俺
『公園の約束』 春のやわらかな風が、ブランコの鎖をきぃきぃと寂しげに鳴らしていた。夕暮れの公園には、もう誰の姿もない。遊具が地面に落とす影は長く伸び、空は少しずつ、茜色に染まり始めていた。まるで、今日という一日が終わってしまうことを惜しむかのように、淡く滲むグラデーションが広がっている。「ねぇ、ユウマくん!」 カオルの甲高い声が、広々とした芝生の上に響いた。ポニーテールにするにはまだ短い、真っ黒な髪を、細いピンで懸命に留めている彼女は、火照った赤い顔でユウマの背中を追いかけてくる。少し開いた口から漏れる白い息が、春の冷たい空気に溶けていった。「んー? なにー?」 ユウマは、滑り台のてっぺんに腰を下ろし、ぼんやりと空を見上げていた。茶色がかったくせ毛が、風にふわりと揺れる。その視線はどこか遠く、今目の前にある現実とは別の場所にいるかのようだった。 カオルは彼の隣にちょこんと座ると、両手を膝の上に置いて、小さな指をぎこちなくもじもじと動かす。何度も胸の中で繰り返した言葉。何度も言おうとして、結局喉の奥に引っ込んでしまった言葉。でも、今日こそは、そう強く決心していた。「ねぇ、ユウマくん……大きくなったらさ、あの……結婚してくれる?」 その言葉は、風に乗ってふわりと滑り台の上を漂った。カオルの頬は夕焼けの色にも勝るほど真っ赤で、その瞳は、嘘偽りなく真っ直ぐにユウマを見つめている。彼女の心臓は、ドクドクと鼓動を速め、耳の奥で激しく鳴り響いていた。 ユウマは、ぽかんと口を開けて彼女を見つめる。そして、少しだけ、くしゃりと笑った。「えー? 結婚? それって、大人がするやつでしょ?」「うん、でも、わたし、大人になったらユウマくんと結婚したいの!」 カオルは、きらきらと目を輝かせて言った。その瞳には、ユウマの言葉を疑う気持ちも、自分の気持ちに迷う心もなかった。ただ、ユウマのことが好きだから。ただ、ずっと一緒にいたいから。それだけだった。 ユウマは、少し考えるふりをして、再び空を見上げた。そして、子供特有の無邪気な残酷さで、ふいっと肩をすくめた。「んー、わかんない。俺、サッカーのほうが楽しいし。」 カオルの顔から、一瞬だけ笑顔が消え、影が差した。しかし、彼女はすぐに、太陽のような明るい笑顔を取り戻す。その笑顔の裏に隠された、ほんの少しの寂しさなど、ユウマ